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伝説の歴史漫画『静粛に、天才只今勉強中!』ついに復刊

ずいぶんと長い間「復刊ドットコム」にて投票が行われていた倉田江美の歴史コミック『静粛に、天才只今勉強中!』。



今年2月から9月にかけて、新装版で復刊されます!

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私がこの漫画を知った時はすでに入手困難だったようですが、田舎の小さな本屋さんでほこりをかぶっていたのを、奇跡的にゲットしたのでした。

新装版の価格は1800円ちょい。漫画としては少々お高めですが、ぜひ読んでいただきたい名作です。

全11巻を全8巻に編集しなおしてあり、新装版の方が元の本より装丁が良いそうです。




静粛に、天才只今勉強中!』はフランス革命期~ナポレオン帝政期までが舞台の歴史漫画です。中学校の物理学教師ジョゼフ・コティが主人公。
フランス北部の町アラスで後の革命家ロベスピエール(当時は弁護士)と出会い、政治の世界に入っていきます。「断頭台まで半歩」と言われた激動の時代を、ちょっととぼけた性格の主人公がどう渡り歩いていくのか。波乱万丈の物語です。

主人公には「ジョゼフ・フーシェ」という実在のモデルがいます。

お話も、シュテファン・ツワイクの伝記的小説『ジョゼフ・フーシェ』がおおむね下敷きになっていますが、独自の展開も多く、きちんと「物語として」成立しています。針金のような独特の絵柄が、主人公の飄々とした性格とよくマッチしています。

時代背景として血なまぐさい展開は避けられませんが、そういう描写はほとんどありません。苦手な方もご心配なく。

若かりし頃のナポレオンや、ナポレオンと結婚する前のジョゼフィーヌがチラチラ登場するのもいい感じです。

単に「歴史をなぞる」だけの作品が多かった当時、この漫画は画期的でした。一部では高い評価を得ていました。

作中には、歴史漫画でよく見かける「絵画の模写」も「歴史上の人物のちょっとした説明文」も一切登場しません!

教科書からコピーしてきたの?」みたいな「歴史リアリティを与える目的」で追加されるこれらの諸要素、現在の漫画ではほとんど見なくなりましたが、当時の作品には多かったと思います。

フーシェは「次々と仕える相手を変える変節漢」と裏切り者の代名詞のように言われるフランスの政治家ですが、近代フランス警察の礎を築いた人物としても知られています。

当時は常態だった「自白の為の拷問」を禁止したり、現在まで残るコンシェルジュ制度を編み出したのもフーシェです。漫画にはさすがにそこまで出てきませんけれどもね。

ツワイク版フーシェは「変節ぶり」に焦点が当てられすぎていて、「物語的な面白さ」はあるものの、「史実」としてはイマイチだったりもします。

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ツワイクを下敷きにしたこちらのコミックもまあ、同じですが……。

ただ、むしろ「えっ、この人たち実在したんだ?!」というのが何よりの驚きだと思います。それぐらい「物語」としてよく出来ています。「歴史ってこんなに面白いんだ!」と思わせてくれますよ。入門書としてはうってつけです。何が史実でフィクションか、はその後でじっくり調べたらよろしいかと。


「カミソリ後藤田」と言われた元法務大臣の後藤田 正晴氏が、「日本のフーシェ」と言われて「僕はあんな変節漢じゃない」と憤ったのは割と有名なエピソードかと思います(笑)

閑話休題

作品には、ジェラール・ドパルデュー主演の、映画『ダントン』から引用したと思われるシーンもチラッと登場していて、私は映画の方を後で観たのですが、これには「ニヤリ」としてしまいました(笑)

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この点から見ても、作者が漫画を描くにあたって、相当色々な資料を調べていたことがうかがえます。



Amazonでも購入できますが、「復刊ドットコム」でまとめ買いされると、オリジナルのしおりやクリアファイル、抽選でサイン本などの「特典」がつきます。

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お好みでどうぞ。

……しかし、私は本当にこの作品のファンなので、作者がお元気でまだ連絡がとれるのなら、ぜひインタビューなども読んでみたい。当時の裏話とか。ぜひ。


ジョセフ・フーシェを題材にしたフィクション作品

フィクション作品の中のフーシェの扱いは、同じ時期に外務大臣を務めたタレイランと比べると結構「」だと思います。上の漫画でフーシェを知った私としては、なんともやるせない気持ちです。
そんな中で、フーシェを主役または重要なポジションで登場させたフィクション作品を以下にご紹介します。


辻邦生全集〈11〉小説(11)―フーシェ革命暦1

辻邦生全集〈12〉フーシェ革命暦2・3

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フーシェ自身の視点で物語が進みます。この「謎の多い人物」の内面をどう描くのか、大変興味深かったのですが、作者が亡くなられてしまったので、残念ながら未完です。

暗黒事件: バルザック・コレクション
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フーシェは「脇役」ですが、一応登場します。実際に起きた「議員誘拐事件」を題材にした、バルザックのミステリー小説です。

喉切り隊長
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あれ……? 最近復刊されたかと思っていたのですが、気のせいだったみたいです(汗)
でも載せちゃいます。
イギリス海軍が迫る中、次々と発生するフランス軍内部の血なまぐさい連続殺人事件。その謎と犯人を追います。
この時代が好きな方にはオススメ。フーシェが好きな方にもお勧めです。ラストが「ありなのかそれは?!」とは思います。

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